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公開日:2025年9月21日 最新更新日:2026年4月12日
ここでは、裁判所が、父母の双方を親権者と定める(共同親権)か、その一方を親権者と定める(単独親権)かを判断する場合の基準について、解説します。
「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。」
「離婚の届出は、……及び夫婦間に成年に達しない子がある場合には次の各号のいずれかに該当することを認めた後でなければ、受理することができない。
一 親権者の定めがされていること。
二 親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていること。」
これらの「裁判上の離婚」(裁判離婚)や「親権者の指定を求める家事審判」(親権者を定めないまま協議離婚した場合)において、裁判所が、父母の「双方又は一方」を親権者と定めることになります。
また、「子の出生前に父母が離婚した場合」(新民法819条3項)や「父が認知した子に対する親権」(新民法819条4項)について、親権者の指定を求める家事審判が申し立てられた場合も、裁判所が父母の「双方又は一方」を親権者と定めることになります。
それでは、裁判所は、いったい、どのような基準で、共同親権にするか単独親権にするかを判断するのでしょうか?
新民法は、次の通り定めています。(ここは非常に重要なところですので、少し長文になりますが、新民法の条文をそのまま引用しておきます。 )
「裁判所は、第2項又は前2項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。」
(傍線は弁護士下迫田浩司が引きました。)
少し分かりにくい構造の条文のためか、インターネット上では不正確な説明や混乱も見られますが、整理すると次のようになります。
Ⅰ 裁判所が共同親権にするか単独親権にするかを判断する基準(新民法819条7項柱書前段)
裁判所は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。
Ⅱ (例外的に)裁判所が単独親権の指定を義務付けられる場合(新民法819条7項柱書後段)
「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」
例示として、次の場合。
① 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
② 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
上記のⅡ→Ⅰの順に見ていったほうが分かりやすいと思います。
まず、「共同親権とすることにより子の利益を害すると認められるとき」には、裁判所は必ず単独親権の定めをしなければなりません。
共同親権とすることにより子の利益の害する場合の「例示」として、
①子の心身に害悪を及ぼすおそれ、
②父母が共同して親権を行うことが困難(心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、協議が調わない理由その他の事情を考慮)
ということが挙げられていますが、これらはあくまでも「例示」に過ぎず、これらに限定されるわけではありません。
以上の通り「共同親権とすることにより子の利益を害すると認められるとき」には、裁判所は単独親権の指定を義務付けられます。
次に「共同親権とすることにより子の利益を害すると認められるとき」に当たらない場合は、どうなるでしょうか?
この場合、原則として共同親権になるという誤解も見受けられますが、それは完全に誤解です。
共同親権が原則ではないですし、単独親権が原則でもありません。
「子の利益のため」という観点から、親子関係、父母関係その他一切の事情を考慮して、裁判所が決めます(判断基準は「子の利益」です)。
以上のことを整理すると、次の通りとなります。
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Q 必ず単独親権となる、新民法819条7項後段の「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」や、同項1号の「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれの有無」、同項2号の「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無」などは、あいまいな感じがしますが、裁判所はどうやって判断するのでしょうか?
A 個々の案件において実際のところ裁判所がどのように判断するかについては、2026年4月1日に施行されてから、裁判所の運用の傾向が徐々に固まっていくと思われます。
この点、立案担当者による解説によれば、「医師の診断書のような、過去に虐待やDVがあったことを裏付ける客観的な証拠の有無に限らず、当事者の主張や陳述を含めた諸般の事情が考慮されることとなると考えられる。」されています(法務省民事局民事第二課長 北村治樹編著『一問一答 令和6年民法等改正-家族法制の見直し(親権・養育費・親子交流等)』42頁)。
したがって、たとえば、診断書がないからと言って「身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれ」があるという主張をあきらめる必要はありません。
Q 共同親権にすることに合意していない場合でも、裁判所は、判決や審判で、共同親権と判断することがありますか?
A 合意がない場合でも共同親権と判断することはありえますが、実際上はめったにないと予想されます。
まず、当事者間(父母間)に共同親権にする合意がない場合、父母が高葛藤であるケースが少なくありませんが、その場合、父母の感情的な対立が大きく、「父母が親権を共同して行うことが困難であると認められる」(新民法819条7項2号)ケースが多いと思われます(法務省民事局民事第二課長 北村治樹編著『一問一答 令和6年民法等改正 -家族法制の見直し(親権・養育費・親子交流等)』45頁(注1)、関係府省庁等連絡会議「Q&A形式の解説資料(民法編)」Q3-10参照)。そもそも、共同親権に合意できない父母は、親権を共同して行うことが困難であることがほとんどではないでしょうか。
この場合は、裁判所は、必ず単独親権としなければなりません(新民法819条7項柱書後段)。
仮に、新民法819条7項柱書後段には当たらないと判断された場合、新民法819条7項柱書前段により、裁判所は「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮し」て、共同親権か単独親権かを決めることになり、法律上は、共同親権が原則ではないですし、単独親権が原則でもありません。
ただ、私見によれば、当事者間に共同親権にする合意がない場合には、裁判所が無理やり共同親権を押し付けても子の利益に反することが多いと思われますので、子の利益のため、単独親権とすべき場合が多いと思います。
なお、父母の合意がなくても共同親権とすることが子の利益のために望ましい例として、
① 子と同居する親と子との関係が必ずしも良好ではないために、子と離れて暮らす親が親権者としてその養育に関与することによって子の精神的な安定が図られるケース
② 子と同居する親による子の養育に不安があり、関係機関による支援・関与に加え、子と離れて暮らす親の関与があった方が子の利益にかなうケース
③ 父母間の感情的な問題と、親子関係とを切り分けることができる父母のケース
④ 支援団体等を活用して子の養育について協力することを受け入れることができるケース
⑤ 当初は高葛藤であったり、容易に合意ができない状態にあったりしたが、調停手続の過程等で感情的な対立が解消され、親権の共同行使をすることができる関係を築くことができるようになったケース
が挙げられています(関係府省庁等連絡会議「Q&A形式の解説資料(民法編)」Q3-11。法務省民事局民事第二課長 北村治樹編著『一問一答 令和6年民法等改正 -家族法制の見直し(親権・養育費・親子交流等)』45頁もほぼ同じ)。
しかし、弁護士としての経験上、こういうケースにはめったに遭遇することはありません。
結局、当事者間(父母間)に共同親権にする合意がない場合、多くのケースでは、そもそも「父母が親権を共同して行うことが困難であると認められる」ことになり、必然的に単独親権となります。そして、仮に新民法819条7項柱書後段に当たらない場合であっても、「子の利益のため」単独親権となる場合が多いと思われます。その結果、合意がないのに共同親権となる場合は、実際上はめったにないと予想されます。
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(離婚又は認知の場合の親権者)
第819条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
5 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
7 裁判所は、第2項又は前2項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8 第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
(離婚の届出の受理)
第765条 離婚の届出は、その離婚が前条において準用する第七百三十九条第二項の規定その他の法令の規定に違反しないこと及び夫婦間に成年に達しない子がある場合には次の各号のいずれかに該当することを認めた後でなければ、受理することができない。
一 親権者の定めがされていること。
二 親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていること。
2 離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても、離婚は、そのためにその効力を妨げられない。
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