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離婚後の共同親権の導入を含む「民法等の一部を改正する法律」が、2024年5月17日、成立しました。
この「民法等の一部を改正する法律」の主要部分について、解説いたします。その主な内容は、概ね次の通りです。離婚に伴う親権等を巡る実務に大きな影響を与える改正です。
ここでは、改正後の民法の条文を「改正民法」と呼ぶことにします。
協議離婚の場合、次の通り、父母(夫婦)の話し合いにより、その「双方又は一方」を親権者と定めることになります。
改正民法819条1項
「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。」
なお、従来は、親権者(単独親権者)を指定しないと離婚できませんでしたが、改正民法では、親権者(共同親権者または単独親権者)を指定しないまま、親権者の指定を求める家事審判または家事調停の申立てをしたうえで、離婚だけすることができるようになります(改正民法765条1項2号)。
この場合、家事審判では、次の裁判離婚の場合と同じ基準で、裁判所が親権者を定めます。
裁判離婚の場合、次の通り、裁判所が、父母の「双方又は一方」を親権者と定めることになります。
改正民法819条2項
「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。」
それでは、裁判所は、いったい、どのような基準で、共同親権にするか単独親権にするかを判断するのでしょうか?
改正民法は、次の通り定めています。(ここは非常に重要なところですので、少し長文になりますが、改正民法の条文をそのまま引用しておきます。 )
改正民法819条7項
「裁判所は、第二項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。」
(傍線は弁護士下迫田浩司が引きました。)
少し分かりにくい構造の条文のためか、インターネット上では不正確な説明や混乱が見られますが、整理すると次のようになります。
Ⅰ 裁判所が共同親権にするか単独親権にするかを判断する基準
裁判所は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。
Ⅱ (例外的に)裁判所が単独親権の指定を義務付けられる場合
「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」
例示として、次の場合。
① 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
② 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(【下迫田注】簡単に言えばDVやモラハラ)を受けるおそれの有無、協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
【注意】Ⅱに当たる場合、必ず単独親権となります。他方、Ⅱに当たらない場合、自動的に共同親権となるわけではなく、Ⅰによって、裁判所の判断の結果、共同親権となる場合も単独親権となる場合もあります。
「子の利益のため、一切の事情を考慮」とか「子の利益を害すると認められるとき」などというのは非常に抽象的な概念ですので、裁判所の運用次第で大きく結果が変わるものです。
裁判所の適切な運用が期待されるところですが、裁判所がすべき業務が大幅に増えそうです。しかし、そのために人員が増やされる予定はありません。ただでさえ人員不足で業務過多状態の家庭裁判所に、この役割が果たせるのか、大変心配されるところです。
共同親権となったときも、「子の利益のため急迫の事情があるとき」と「監護及び教育に関する日常の行為」については、親権の行使を単独ですることができます(改正民法824条の2第1項3号、第2項)。
ただ、子の契約の相手方にとっては、「急迫の事情」があるのか「日常の行為」にあたるのかどうかが分からず、後で契約が無効になるのではないかと不安になり、結局、念のため、もう一人の親権者の同意を求められることになりかねません。
子の数に応じて法務省令で定める限度の養育費(子の監護の費用)が、一般の先取特権(貸金債権などの他の債権よりも優先的に支払いを受ける権利)とされました(改正民法306条3号、308条の2、766条の3)。ただ、自動的に支払いを受けられるわけではなく、民事執行の手続きが必要で、いつも功を奏するとは限りません。
改正民法766条、766条の2、766条の3についてはこちら
従来は、面会交流とは、法的には、子と別居親との面会交流を指していましたが、改正法では、子の利益のために特別の必要があると認められる場合は、別居親の親や兄弟姉妹などとの面会交流も含まれるようになります(改正民法766条の2)。
改正民法766条、766条の2、766条の3についてはこちら
従来は、財産分与が離婚後2年以内に手続きをしないと、請求できなくなりましたが、改正法では、5年に延長されます(改正民法768条2項ただし書)。
上記の内容は、2024年5月17日に成立した「民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)」の条文をもとに、弁護士下迫田浩司が主要な改正点の概略をまとめたものです。より正確な内容については、次の法務省のウェブページをご覧ください。
法務省:民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について (moj.go.jp)
2024年2月15日、法制審議会において、離婚後の共同親権の導入を柱とする「家族法制の見直しに関する要綱案」が採択され、同年3月8日、「民法等の一部を改正する法律案」の閣議決定を経て、衆議院法務委員会において、同年4月12日、改正案附則16条以下に17条から19条を加える修正をしたうえ可決され、同月16日、衆議院本会議において、同法律案が可決され、参議院に送付されました。
2024年4月25日から参議院法務委員会で審議が始まり、2024年5月16日、参議院法務委員会で可決され、同年5月17日、参議院本会議で可決され、「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。
上記のように種々の問題点を含んだ法案でしたので、国会において慎重な審議が望まれるところでしたが、かなり拙速に可決されてしまいました。